メトホルミンの話前回の続き。
実はメトホルミンをやってみたいとDr.に初めて話したのは、3クール目の半ば頃のことだ。抗がん剤の効果を高めたり、副作用を軽減するかも知れないという話をどこかで聞いたのだ。
そのとき先生は否定も肯定もせず、しかしきっぱりと「まずはddTC療法をきっちりやりましょう」と言った。
同時に「代替療法についてお考えですか」と聞かれたので、「標準治療に取って代わるという意味での代替療法は全く考えていない」と答えた。
化学療法をやりながらお互いもう少し情報収集をしましょうということになった。
そして化学療法終盤を迎え、あらためてメトホルミンの話どうなりましたかと蒸し返してみたわけだ。
先生は3週ほど回答を保留し、結局化学療法最後の日6クール3週目の日に答えをくれた。
「うちの病院では出来ない」
とのことだった。
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理由は2つ。
1つは、現時点で十分なエビデンスが得られていないこと。
先生は約束通り医局に持ち帰り、標準治療から逸れるため倫理委員会にかける検討をしてくれたそうだ。
そのためにメトホルミンについて報告されている論文の原文を取り寄せ、読み合わせをしたという。
その結果、効果を上げているのはいずれも糖尿病と卵巣癌を併発している例で、糖尿病でない人にメトホルミンを投与した例が確認出来ない。医師として不要な薬はお勧めできない、という結論になった。
2つ目の理由は、こういう用途のメトホルミンは保険適用外であること。
メトホルミン自体は高価な薬ではない。
しかし、混合診療は認められないため、以降全ての検査、診察が自由診療になり、自費負担としてのしかかるので現実的ではない。
きちんと検討してくれたことに感謝しつつも、期待して待っていた分落胆した。
先生は私の気持ちを汲んでか、
個人的にはメトホルミンに関心を持っていること、まだ研究が初期段階過ぎて服用を検討するには余りにも早すぎるのだと言うことを重ねて説明してくれた。
「そのうち研究が進んで、当たり前のようにメトホルミンが処方される日が来るかも知れない。しかし現在は、効能は不明確なのに、稀に重篤な副作用の可能性があることだけがはっきりしているんです」
「せっかく手術出来て、化学療法も無事に終わったんですよ。治療がうまくいった大事な患者さんを不要なリスクに曝したくない」先生はそう言った。
なるほど。私は成功ケースとして扱われているのか。
先生の説明はとてもクリアで、納得のいくものだった。
先生は最後に、
「ただそれでもどうしても服用したくて、よそのクリニックで処方してもらうというなら、それは我々に止める術はない」
とちょっと抜け道めいたことを呟いた。
私が「もし勝手に他の病院でメトホルミン出してもらって、飲んで何か副作用が出たとしたら、すみませんけどこちらの病院に駆け込むことになるかと思います」と甘ったれたことを言うと、
「そうなんでしょうねえ」と苦笑していた。
メトホルミンについて、先生の説明はとても理性的で頭は100%納得した。
しかし感情はまた別の所にあった。
最近になって騒がれ始めた比較的目新しい情報。飲むだけで手軽。しかも安価。
楽をしたいけど心の安定のために何かやっているという実績が欲しい、けちでズボラで新しい物好きな私が飛びつきたくなる要素が満載だ。
主治医が処方してくれない場合、メトホルミンを入手する方法は3つある。
1. PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)改善などのため、保険適用外で処方してくれる所を探し、事情を理解してもらう
2. 高額な自由診療クリニックを利用する。
3. お勧め出来ませんが求めれば大抵の物は手に入る時代です。
そんなわけで色々考えた末、毎日メトホルミンを飲んでいる。今のところ特に副作用は感じていない。
他にもっと期待出来そうな物があればチェンジするかも知れないが、5年くらいは飲んでみようかと考えている。