前回の話の続き。
色々考えたり調べた末、診察の時思い切ってDr. に相談してみた。
「先生、メトホルミンをやってみたいんですが」
本来がんとは関係ない薬が、がんへの効果を期待されるケースがある。鎮痛薬のアスピリン、コレステロール治療薬のスタチン、そしてこのメトホルミンなど。
【メトホルミンの効能】
メトホルミンは2型糖尿病の薬だが、2012年頃からがんに関する”プラスの作用”について注目され始めた。
米メイヨー・クリニック所属の研究グループがアメリカがん協会のCancer誌に掲載した論文で、卵巣癌とメトホルミンについて報告している。
糖尿病のメトホルミン服用群と、非服用群のその後の生存率を症例比較研究したものだ。(卵巣癌の治療研究センターによる抄訳)
かいつまんで言うと、ステージや患者の身体状況など様々な要因を排して尚、
・メトホルミンを服用した患者の方が、服用しなかった患者よりも5年生存率が3.7倍高かった。
・卵巣癌細胞にメトホルミンを与えると癌細胞の分裂が止まることが、「試験管レベルでは」観察されている。
しかしながらその作用機序(なんで効くのか)についてはまだはっきりと解明されていないようだ。
恐らく
「メトホルミンが癌細胞のエネルギー源であるブドウ糖を欠乏させ、その成長を阻害する」
のではないかとのこと。
最近では岡山大学の研究グループが
「メトホルミンががんのある場所でキラーT細胞を維持する効果がある」(Medエッジ記事)
という免疫療法的な働きについて発表した。
乱暴にまとめるとメトホルミンを飲んでいたら、5年生存率が上がる=がん幹細胞の働きを阻害し再発を抑える、もしくはがん細胞の成長を遅らせることが出来る「かも知れない」。
【メトホルミンの副作用】
メイヨー・クリニックのDr.は「糖尿病の人なら使ってみても良い。糖尿病でないなら、卵巣癌のためだけに使用するのは時期尚早」と述べている。
メトホルミンには乳酸アシドーシスという重篤な副作用がある。血中に乳酸が溜まって血が酸性に傾いてしまう状態で、死亡率は50%と高い。国内の糖尿病治療薬に余り用いられてこなかったのはこのためと言われる。
現在では、心疾患、肝機能及び腎機能に障害がなければそれ程の頻度では起こらないと判っているが、低血糖、胃腸症状など副作用は他にもある。
メトホルミンはPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)を改善するとされ、不妊治療のカテゴリで処方してくれることもあるので、婦人科では割となじみの薬かも知れない。もちろん保険適用外だ。
診察時、主治医はメトホルミンやりたいと言っただけで趣旨を理解してくれた。恐らく先の論文の存在を知っていたのだろう。ただ、標準治療から外れるので医局に持ち帰って検討したいと言われた。
「皆さん色んなことをやりたがる。標準治療がきちんと出来ているにも関わらず」と先生。
思うに、「標準治療」という名前が良くないのだ。地味過ぎる。
標準治療 ・・・ 標準 ・・・ 並か・・・ 牛丼で言ったら並盛りか。
人生の一大事に並盛りはねーよな。どかんと特盛り、いや、メガ盛りにして欲しい。
王道治療とか世界中の名医が迷わず選ぶ第一選択治療とか、もちっとテンション上がる名前なら良いのに。